子供(中学生)の理科の資料集におもしろい図が出ていました。
身の回りのエネルギーをジュールで表して実感を持たせようと言う意図のようですが、
(グラフはジュールで描いてあるのに、仕事の説明はグラム重センチメートルで
しようという大矛盾がありますが)、
全く実感が持てない値があります。
月が顔に1秒間に注ぐエネルギーは8×10-5ジュール(J)だというのです。
実感が持てないわけは、まず、ジュールってどんな単位なのよ、ということ、もう一つは、月からエネルギーなんか受けてないよ、という感覚だろうと思います。
エネルギーというのはそもそも感じにくい単位なのかもしれません。MKS単位系では、時間(秒)、距離(メートル)、質量(キログラム)、アンペア(A)、温度(ケルビン)、光度(カンデラ)、物質量(モル)の7つが基本単位となって力(ニュートン=Kgm/s2)が組み立てられ、ジュールはNmと定義されます。重力加速度がだいたい9.8m/s2ですから、ジュールとは、100グラムの物体を1m持ち上げるのに要するエネルギーということです。エネルギー単位には、カロリーを使うこともあります。1カロリーは、1グラムの水の温度を1度上げるのに要するエネルギーで、だいたい4.12Jと等価です。
この定義から顔に注ぐ月のエネルギーを解釈し直すと、0.8グラムの物体を毎秒1㎝メートル持ち上げるエネルギーということになります。月夜の晩に外に出ると、顔の広さ(300平方センチ)ごとに毎秒1グラム近い物体が1cmずつ持ち上がる、実際はそんな動きはしないが、月光を受けている草や地面はそれだけの恩恵を受けている、と言うのです。うっそつけー、と思いますよね。
月から注ぐエネルギーを全く実感できませんが、 太陽のエネルギーは相当なものです。 太陽から地球に降り注ぐエネルギー率は、太陽定数と言って理科年表にも載っています。
それは、1.96cal/cm2min. すなわち1平方センチメートル当たり毎分1.96カロリーということです。 茶さじ一杯の水は2-3グラムですが、スプーンの面積も2-3平方センチメートルはありますから、
スプーンに水をいれて陽の当たる場所に置いておくと毎分2度ずつ温度が上がるということです。 ただし、太陽は天頂から照っているわけではないですから、
水平線からの高度にサインがかかります。
太陽の出すエネルギー率はわかりましたが、月はわかりません。 しかし、理科年表には、太陽と月の光度等級が出ています。 星が何等星かという、あれです。
明るい惑星や恒星が、1等星だとか、肉眼にやっと見える星が6等星だとか習いましたが、 太陽や月にも等級があるというのはちょっとした驚きです。 理科年表によると、太陽は-26.8等星、月(満月)は、-12.6等星ということです。
1等星違うと明るさが2.5倍違うのだと習いましたが、 なぜ2.5倍なのか不思議に思いませんでしたか? 定義では、5等星違うと明るさが100倍違うことになっています。
ですから、正確には、1等級違うと、1001/5=2.512倍違います。太陽と月は、14.2等星の差がありますから、 (1001/5)14.2 の違いがあり、
これは、およそ5×105に相当します。
太陽と月の明るさ、すなわち地球に降り注ぐエネルギーには、
50万倍の違いがあるのです。
これは、なかなかよい指標です。100万倍も違うんだよ、
とか、1ppmという単位が出てきたら、ははーん、太陽と月の違いだな、
と思うと実感がわくでしょう。
さて、そうすると、太陽定数に相当する月定数は、 1.96cal/5×105/cm2minで、
これを1秒当たりのジュールに変換し、
顔の面積に相当する300平方センチをかけると、
まさに、8×10-5J/s という値が出てきます。
ジュール毎秒はワット(W)ですから、0.00008Wです。
なんとなく納得できないのは、月の光を1グラムの重さの物体の運動に
置き換えようとしたせいかもしれません。
今度は、熱量で考えてみましょう。
さきほどの数値をカロリーに直すと、
2×10-5cal/sという数値になります。むりやり水の温度上昇に置き換えると、1mgの水の温度を0.02度上昇させるカロリーです。小さすぎてやはりぴんと来ません。
地球に降り注ぐエネルギーや熱量というと、
地球温暖化が気にかかります。
地球全体でのエネルギーを計算してみましょう。
地球の半径は、6380kmで、その投影面積を平方センチで表すと,
1.3×1019cm2になります。
これにさきほどの太陽定数をかけると、太陽から地球全体に降り注ぐ熱量は、
2.5×1019cal/min と計算できます。
月から降り注ぐ熱量はこの50万分の1ですから、
5×1013cal/minということになります。 今度は、また、やたらと大きい数値になってやっぱりぴんときません。 ただ、太陽光を反射するだけの月から、毎分50兆カロリーも地球に来ているとは驚きです。
こういうときは、何か、身近に感じられる大きなエネルギー量と比較すると
実感がわくでしょう。
地球上で一年間に生産される原油は、40億キロリットルほどです。
プラスティックなどに加工されるものもありますが、いずれは燃やされる運命、
全部が燃やされると仮定してどれくらいの熱量が生産されるかというと、
1グラムあたり約10カロリー(脂肪が1グラムあたり9カロリーというのに近い)で、
全部で4×1019cal/yearという量になります。
これまた大きい量ですが、さきほどの、太陽からの総エネルギー量と近いようです。
ただ、太陽の方は毎分のエネルギー、原油の方は、1年間のエネルギーです。
つまり、地球上で燃やされる石油1年分に匹敵するエネルギーが太陽からは
毎分降り注いでいる、ということです。
一年はだいたい50万分ですから、石油のエネルギーは太陽エネルギーの50万分の1
ということです。
これは、なかなか意味深な量です。
大都市のエアコンや自動車が発生する熱によるヒートアイランド現象などがよく問題に
なりますが、太陽熱に比べると微々たるもの(もちろん、
集中しているので局部的には大問題です)という見方も可能です。
また、地球温暖化は、石油を燃やしたことによる直接的な熱量ではなく、
それが発生する二酸化炭素が太陽熱の吸収を0.1%でも変えることによる
影響の方が500倍も大きいことがわかります。
おっと、問題は、月からのエネルギーでした。
50万倍、という数値で気づかれたでしょう。
地球上で燃やしている石油のエネルギーは、
月からのエネルギーとほぼ等しいのです。
ただ、月は、24時間は輝きませんし、新月も半月もありますので、
石油エネルギーの熱は、月5個分くらいではないかと推測します。
こんなにばんばん石油を燃やして部屋を明るくしているのに月5個分かよ、
とか、月があと5個あったら石油はいらないのか、
と考えると不思議な気がします。
太陽エネルギーもそうですが、
月のエネルギーもとても公平でまんべんなく降り注ぐので、
ほとんどは海に行ってしまって、我々が使える形にはなりません。
しかし、月のエネルギーってそんなにあったのか、石油もたいしたことないな、
というのが実感ではないでしょうか。