<私家版> 電子ピアノの選び方

-その2-

2003年6月 松井

反響

この私家版電子ピアノの選び方を読んでくださったご近所の音楽のプロや愛好家の方々からいろいろなご意見をいただきました。

一番驚いたのは、みなさん、調律にひとかたならぬ興味と心配をお持ちだと言うことです。音質とタッチが一番重要だと思っていたのですが、そんなものは二の次だとばかり、次から次と、調律に関する経験談をうかがいました。

まず、お琴の先生から

「お琴なんて、純正律に合わせるのが一番簡単でぴったりの楽器のはずなのに、知らず知らずに平均律に合わせていた。私はなんて愚かなんでしょう!」 別に愚かでも何でもありません。小学校のオルガン、ハーモニカに始まって、私たちの周りは、平均律で満ち満ちています。そういう中で純正律を聞くと、なんだか調子外れに聞こえてしまうのです。情けないことです。ついでに、「そういえば、以前聞きに言ったバイオリン独奏のリサイタルで、音がはずれているように感じたけれど、あれは私の耳の方がはずれていたのかしら?」それは確かめるすべがありませんが、可能性はなきにしもあらず。ピアノの音が正解と信じ込まされていますから。

次にお母さんはピアノ、息子さんはバイオリン、 というお母様

息子さんが子供の頃、すごい苦労をしてバイオリンを純正律に調弦し、それを息子さんに渡して練習させたのだそうです。その結果、当然、息子さんは、純正律な青年に成長されました。とても音に敏感で、ピアノは音が狂っていると感じるそうです。学校に 行くと周り中が平均律で、自分だけ音がはずれていて(といっても周囲の連中にはわかるわけがない)、寂しいというか気持ちの悪い思いをしたとか。(これか らは、適当に感性の合う人は、調子が合う、ばっちり感性の合う人 は、調律が合う、という表現を使ったらどうでしょうか?)

それからピアノの先生

バッハ以来平均律、というのは必ずしも正しくないそうです。確かに、バッハの平均律クラビーアは、24の長短調を全部弾けることを 示したと言うことになっていますが、原題のWohltemperiertes Klavirは、「よく調律された(wolhは、英語のwellの意味)」と言っているのであって、平均律とは言っていません。さらに、平均律は、バッハの生まれる前、16世紀頃にもあったとする説もあるそうです。バッハは、ミーントーンやベルクマイスターなどを微妙にうまく調律していたのかもしれません。それから、何調の純正律、と言ってもはじめから最後までその調子である曲はまれなので、途中で簡単に調子を変えられる機構があるとよいのではないか、 それどころか、弾いている曲に合わせて自動的に調律を変えてくれる電子ピアノが作れるのではないか、とおっしゃっています。ところが、弾いている調子に合 わせるのは、そのあたりの音符をいくつかたたいてもらわないとピアノ(の中のコンピュータ)には調子がわからないので、その場で調律を変えたときはすでに調子外れの音が出た後、ということになります。MIDIを読み込む機能と合わせて、楽譜を表示し、調子を瞬時に変えることはできそうですが、数小節前の音 符の余韻が残っていますから、やはり転調の瞬間には不協和を生じそうです。

最後に、バイオリンの先生でピアノもたしなまれる方

ここのところ3年間もピアノの調律をほっぽってあって、急にピアノの調律をしなければ、という気に なったのですが、調律をさぼっていたのには理由があるとのこと。調律には1,2時間かかるのだそうですが、ご苦労様、と言ってお茶やお菓子を出すと、どの調律士さんもその後、延々とだべって行かれるのだそうです。昼から始まって2,3時間も話をし、あげくの果てに夕飯までごちそうになっていくとか。いろんな人に聞いて違う人に頼んだりもするが、どの人も同じように時間がかかるのだそうです。それ以来、調律を頼むのがおっくうになったとか。調律のいらない電子ピアノばんざい〜!(だけど、いったいどんな長話をしていくのか、という興味もつきない)


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