歯車というのは、真円に決まっている。歯車は、かみ合わせるのだから、直径の異なるギアを連結させれば真円以外では回らない。しかし、チェーンやベルトを介在させれば話は別である。自転車ライダーは、脚を回して、より正しくは体重をかけて上下動させて、力をペダルからチェインリング、そして後輪に伝える。しかし、脚は、360°の全角度で一様な力が発揮できるわけではない。上死点、下死点付近では、足を前後に動かすことになり、ほとんど力が出ない。やはり力が入るのは、体重を載せられる、クランクが水平になる辺りだ。そこで、クランクが水平辺りではギア比が高くなり、上死点、下死点付近ではギア比を小さくして負荷を軽くし、さっと通り抜けようとするのが、楕円のチェーンリングである。時間で考えた方がわかりやすいだろう。速度一定で走っているとき、クランクが水平辺りに来ると、クランクの回転角速度が遅くなり、クランクが水平付近にとどまる時間が長くなる。その角度は、体重をかけて踏みやすいので、その時間を長く取れれば、よりたくさんの脚力を引き出せる。
その昔、私が中学生の頃、つまり70年頃、ブリジストンの子供用スポーツ自転車には、オーバルギアが付いていた。力を有効に利用して疲れないという理屈には共感したが、乗ってみても、すぐにはよくわからなかった。だってそれが初めての自転車みたいなものだったから。ただ、チェーンがよくはずれた。後に、友達の真円リングの自転車に乗ってみたら、なんだこりゃ、スカスカじゃないかと感じた。確かにオーバルギアの効果はあったのだ。力をかけるべきところでちゃんと踏みごたえがある。力がなめらかに使われている感触があった。
その後、ブリジストンは、オーバルギアをやめてしまった。代わって、80年代にはシマノが、biospaceとかいう楕円ギアをシリーズ化したらしい。人間工学に基づいていたと吹聴していたが、ブリジストンのオーバルギアとは位相が90度ずれていて、上死点、下死点で最もトルクを要求するという馬鹿げた仕様で、あっという間に姿を消したらしい。ちょっと乗ってみればわかるだろうに、わからなかったとすると、楕円も真円も何も違わないと言うことになる。
楕円ギアに先鞭を付けたのは日本メーカだったようだが、大変残念なことに、みんなdiscontinueになってしまった。ペダリングの効率の問題よりも、変速性能が劣化するのを嫌ったらしい。当時の前ギアは、変速のギミックは何もついていなくて、変速には結構苦労した思い出がある。今も楕円チェーンリングを作っているのは、欧州のメーカのようだ。スペインのRotor社のQ-Ring、フランスのO-Symetric
が有名で、Ogivalというのもフランスである。Ogivalというのは、123%という極端な縦横比で、O-Symetricも121%だと自転車探検に書かれている。効果は顕著かもしれないが、フロントの変速に支障がないだろうか。
インタネットで、Q-Ringを探すと、アマゾンでも扱っているようだ。ちょうどユーロが下がってきたので、生産地に近いヨーロッパの通販を探してみる。Wiggleには見つからず、Bike24で発見。カンパニョーロ(欧米では、Campyと呼ぶようです)の11速、50/34のコンパクトと互換性のあるチェーンリング2枚、というのがぴったり適合する。PCD (pitch circle diameter)は、コンパクトクランクの上限の110mmで共通、アウターが50Tで、カンパと同じ、インナーは36Tで、カンパの34Tより少し大きい。
Bike24でぽちっとやって、アウター、インナーのギア板2枚を13,000円ほどでお買い上げ。チューブレスタイヤ2本も一緒に買う。日本で買うと、たとえばamazon.co.jpでは、アウターが21,000円、インナーが10,500円という、高級品価格で売られている。海外通販を使うと、半分以下ですね。日本の消費者は、完全になめられてますね。
注文後、2-3週間で到着。配達に来た郵便局員に、通関手数料と消費税で700円を支払いました。段ボール箱は、税関で開封されたようです。
サイクリングに行く朝、えいやっと取り付けることにしました。ボトムブラケットBBをはずす工具がないので、ギア板をクランク-スパイダアームに留めているフィキシングボルト5本をはずして、ギア板だけをはずします。そして、クランクとペダルを通して抜き取ります。それから、インナー、アウターの順に、ペダルからクランクを通して、取り付け位置にセットします。それが、知恵の輪遊びのようなことになりました。特にインナーは嵌めにくい。クランクと反対側にある二つのスパイダアームに最初に通すようにします。それでも、かなり苦労して、がちゃがちゃやっている間に、ギア板とフレームがこすれて、フレームの塗装に傷が付きました。さらに、ギア板には、裏表があります。アウターには銘が入っているのですぐわかるのですが、インナーは明確な印がありません。それで反対に付けてしまいました。ねじ穴の片側にだけへこみがあるので、反対に付けると、ねじがはみ出します。台座をくわえ込む部分がえぐられているのが裏(フレーム側)です。この付け外しで、また傷を増やしてしまいました。見えない部分ですが気分悪いです。
この取説からわかるように、取り付け位置は、5カ所から選べます。真ん中にしておきました。取り付けボルトの位置を変えるのですが、それを合わせるのは、ちょうどクランクの裏側で、こちらからは見えません。そこに、アウターとインナー、それにその間のスペーサーと一緒にボルトを通すのは、なかなか骨が折れます。見える場所で、あらかじめ3つにボルトを通しておいて、そーっと動かしてクランクの裏側のねじ穴に手探りで当てます。ゆるく取り付けて、他の4カ所を手早く位置あわせします。BBからクランクを抜いて作業すれば簡単なのでしょう。
元のカンパ・アテナのチェーンリングは、銀色だったのに、Qringsは、黒く、場違いな感じです。ねじが浮き出て見えるのもかっこ悪い。カーボンに合わせて作ってあるのでしょうね。クランクもカーボンにすればマッチするでしょうか。黒い塗装をはがすという手もありますか。
QRingの直径を計ると、歯先で長径が、219mm、短径が200mmでした。50Tの真円アテナは、206mmです。アウターの歯数は、50Tで同じですが、オーバルの長円方向では、55Tくらいの直径になります。大きいので、そこがフロントディレイラに接触します。それで、ディレイラを7-8ミリ上方にずらして、ディレイラを再調整しなければなりません。バンド式だからすぐ変更できましたが、直付けだとたいへん難しそうです。FD調整がなかなか難しい。どうしてもちょっと触ってしまうようです。自分でやると、どうしても接触する部分ができるので、まつながさんに調整をお願いしました。
乗ってすぐに、違いがあるのはわかりました。どう違うのかは説明が難しい。1-2キロ走ったら、もう慣れてしまって、何が違うか説明するのがさらに難しくなってしまいました。この記事は、なかなか的を得ていると思います。